見上げる程の大きなスクリーンの中では、主人公である舞が涙を流していた。


今まで全く音声は耳に入ってこなかったけれど、きっと彼女にとって悲しい出来事があったに違いない。


(もしも舞が実在していたら、私と分かり合えたかも……)


そんな、馬鹿げた事まで考えてしまう。


けれど、もちろん現実世界には“舞”は居ないわけで。


そうなると。


(花恋、花恋に会いたい)


ほんの少しでいい。


スキンシップの少々激しめの彼女に、数秒で良いから抱き締められたい。


手を握ってくれるだけでもいい。


『優希』


と、一言私の名前を呼んでくれるだけでいい。


それだけで、きっと私の心は軽くなる。


また、“勇也”になりきれる。



「っ……」


しゃがみ込んだ私は、たまらずに嗚咽を上げた。


音声が大きい為、私の泣き声は周りには一切聞こえなくて。


この場所は死角だから、誰からも見られない。


『…私は遥の事が好きなのに、遥は私の事を忘れちゃうの…?何で、何で!?』


スピーカーからは、舞のヒステリックな声が聞こえてくる。


(私と、同じ)


舞が家族に慰められながら泣いている姿を見ながら、私は座り込んだまま、流れ落ちる涙を拭っていた。