私のたった1人の家族は私の事を忘れ、


『私は優希だよ』


と伝えても、


『何を言っているの?あなたは勇也じゃないの』


と、明らかに“私”を否定された。


けれど。


「ママっ………!」


(もしかしたら、ママも何か思い出したかもしれない)


私は有り得ない期待を胸に抱きながら、そっとママの方を盗み見たけれど。


暗い映画館内でも分かる程、彼女は泣いていなかった。


それが、余計に私の涙腺を刺激して。


(そんなっ……)


「…母さん、ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」


私は何とかして震える声を抑え、母親の横をすり抜けた。


ママは、ただ頷いただけだった。



よろめく足取りで緩やかな階段を降り、映画を観ている人の邪魔にならない様に中腰で一番前の列を通り過ぎた私。


そのまま、ドアの近くの客席からの死角となっていてスクリーンが見える位置に辿り着いた。


そして私は、ドアの外に行く気力も無く、その場にへなへなとしゃがみ込んだ。


(やっぱり、駄目だったんだ……!)


私の中での最後の望みは、音を立てて崩れ落ちた。


(期待なんて、しなければ良かった……)


もう、気分は最悪だ。