私の本音は、あなたの為に。

そうならない為に、彼が少しでも落ち着くのなら。


彼を怖がらせている“何か”から、目を背けさせる事が出来るなら。


17:00までの数分間だけでも。


私は喜んで、彼の支えになる。



「五十嵐、大丈夫だから。泣いてもいいからね」


そう言った私の心の中は、反省という言葉で覆われていた。


(五十嵐も、辛かったんだね…。自分の事に必死になってて、気付けなくてごめんね)


「っ……ご、めん…」


彼は、泣きながら何度も頷いた。


「…何が怖いのか分からないけど、五十嵐なら大丈夫」


私は、根拠も無いのにそう話し掛ける。


(五十嵐は、私とは違うから)


下を向いている五十嵐に、私の表情が見られなくて良かった。


(五十嵐は、いつでも誰かに助けを求められる。…こうやって、その人の傍で泣くことも出来る)


それに比べて、私はどうだろうか。


(私は……花恋の前でしか助けを求められない。それに、花恋に無理をさせないように…)


私は、五十嵐に気付かれない様にため息をついた。


(溜め込んでる。全部)



私の中で溜め込み続けたそれは、今どうなってしまっているのだろうか。


大好きな母親を騙し続ける辛さと、母親の笑顔を見る為だけに演技し続ける満足感。


それが完全に矛盾していたとしても、私にはもう何も出来ない。