私の本音は、あなたの為に。

あれから一向に動こうとしない五十嵐。


とにかく、彼の手をそっと離した私は、五十嵐が落とした本を持って立ち上がった。


(五十嵐、どうしたんだろう…)


本を本棚に入れる間、頭の中をよぎるのはそんな考えばかり。



「安藤!安藤、何処!?」


本を本棚に入れたついでに何となく本の整理をしていた私の耳に、五十嵐の切羽詰まった声が聞こえてきた。


「え?どうしたの?」


突然の事に、頭が働かない私。


(さっきから、おかしいよ)


私は五十嵐の方を見た。


彼は、少し遠くから見ても分かる程強く下唇を噛み締めていた。


あと少しで、血が出てしまうのではないだろうか。


そんな彼の目は忙しなく動き回り、私の姿を求めていた。


けれど、またもや何かを見てしまった五十嵐は、


「っ……!」


と、頭を押さえて俯いてしまう。



先程は本を落として辛そうにしゃがみ込み、今度は焦って私の姿を求めている。


彼がどうしてこんな事になってしまったのかは分からないけれど。


彼が今、本当に私の存在を必要としている事は私にも分かる。


だから、私は。


「五十嵐?私はここに居るよ。ほら、私を見て」


小さく丸まって震えている彼の元へ飛んで行き、自分の頭を強く抱え込んでいる彼の手を握り締めた。