私の本音は、あなたの為に。

(残りの時間は、私が読みたかった本でも読もうかな)


私がそんな事を考えていると。


「あっ……!」


五十嵐の息を飲んだ様な声と、何かが落ちる音がした。


(ん?)


私は、伸びをしながら後ろを振り返った。


私の後ろには、本棚に近寄っている五十嵐の姿。


先程と違うのは、五十嵐が立っておらず、うずくまっている事だった。


五十嵐は両手で頭を抱え、肩で大きく息をしていた。


五十嵐の足元には、戻すはずだった本が無造作に落とされていて。



「五十嵐?どうしたの、大丈夫?」


具合が悪いのだろうか。


私は急いで彼に近寄り、しゃがんでその顔を覗きこんだ。


「…安、藤……」


私が彼の肩を掴むと、五十嵐はその手を握ってゆっくりと顔を上げた。


そして、五十嵐が私の顔を捉えた直後、


「ひっ……!」


五十嵐は、怯えた様な弱々しい声を上げ、眉間にしわを寄せた。


まさかとは思うけれど、五十嵐は私の顔を見てあんな声を出したのだろうか。


(私、変な顔をしていたの?)


けれど、私のその考えはあっさりと打ち砕かれた。


五十嵐は、私の顔の後ろ側を見て怯えていたのだ。


(嘘、もしかして幽霊とか…!?)


幽霊は、私が男のふりをしているとばれる事の2番目に恐れている事。