私の本音は、あなたの為に。

全てを諦めたかの様な自虐的なその言葉に、私は目を見開く。


「…何で、読めないのにこんな事してたんだろ……。ごめんね、安藤」


感情の籠らない淡々とした声に、私は声を出す事を忘れる。


(どうして…五十嵐、どうしちゃったの?)


(私は、五十嵐の力になれればそれで良かった。…全然、そんな風に思ってないのに…)


「五十嵐、私はそんな風に思ってないよ」


私は中腰になり、五十嵐が力任せに投げた眼鏡を掴んで五十嵐の手に強制的に握らせた。


「ね、読もう?手伝ってあげるから」



けれど、五十嵐の反応は先程と変わらなくて。


「……ごめん、安藤。ちょっと今日は読む気になれないわ。…また今度でも良い?」


ごめんね、本当に。


そう何度も繰り返す五十嵐の横顔は、本当に辛そうで。


五十嵐は、ゆっくりと眼鏡を机の上に置いた。


本当に、今日の五十嵐は本を読む気になれない事が伝わってきた。


「うん、分かった」


これ以上言及してはいけないと思った私は、素直に頷いた。


「じゃあ、戻して来るね。あそこの棚だよね?」


五十嵐が指差した本棚を見て、私は返事の代わりに頷いた。


五十嵐は、私に背を向けて本棚へ歩いて行く。


(後15分か…)


今の時刻は16:45。


まだ、15分も時間がある。