私の本音は、あなたの為に。

「安藤、待って!」


突然、五十嵐の慌てた声が耳に入ってきた。


「ん?」


カウンター席に読みたい本を置いた私は、五十嵐の方へ振り返った。


「あのさ……」


五十嵐は自分のスマートフォンを片付け、両手を擦り合わせて私を上目遣いで見上げた。


「安藤のおすすめの本、教えてよ」


急に、五十嵐はそう提案してきたのだ。


「うん、いいけど…」


今まさに彼が私に向かってやっている両手を合わせる仕草は、“お願い”という意味なのだろうか。


五十嵐は、自分で本を取りに行く気は無さそうだった。



それにしても。


(五十嵐、読めるのかな?)


多少の不安を胸に抱きながら、私はまたもや本棚に近寄って私の知っている作者の書いた文庫本を取り出す。


「これでいい?…字が小さいなら、変えるけど」


五十嵐の元に戻った私が尋ねると、


「うん、大丈夫」


彼は、にこりと笑って私の手から本を取った。


「じゃあ、私はカウンターにいるから…」


そう言い残して、私がまたカウンター席に向かおうとすると。


「あっ、待って!」


五十嵐は、途端に私の手を掴んできた。


(えっ!?)