私の本音は、あなたの為に。

「ちょっ、何すんの」


五十嵐はしばらくこちらを睨みつけていたけれど、渋々答えてくれた。


「……あの後、此処に来てた」


五十嵐は、その言葉をため息と共に吐き出した。


「…何で、戻って来なかったの?」


私は、カウンター席に向かいながら質問を続ける。


「何でって……気まずいじゃん。読めなかったんだから」


最後の方は、投げやりだった。


「安藤と係の時にあんなに音読して、教えて貰ったのに……本当に読まないといけない時に読めないなんて、最悪だよね」


本当は、図書室に来るのも嫌だったんだけどね……、と呟く五十嵐。


(何で?)


そう思ったけれど、また質問をすると五十嵐の気分をもっと損ねそうだから。


私は、


「じゃあ、また読めば良いじゃん。一緒に読もう?」


と、明るく呼び掛けた。


「んー」


五十嵐はこちらを見ずに語尾を伸ばして返事をし、そのままイヤホンを耳につけた。


「私は、カウンター席に居るから」


私の声は、既に曲を聴き始めた五十嵐に聞こえただろうか。


「…んー」


先程よりも遅れていたものの、彼から返事が返ってきた。


(良かった)


私はにこりと笑い、カウンター席に座った。