私の本音は、あなたの為に。

それなのに。


「……先生、俺抜けます」


クラスメイトのがやがやした声の中に、五十嵐の声が混ざった。


「えっ?」


「五十嵐君、どうしたの?」


私と先生の声が、重なった。


瞬間、騒がしかったクラスが水を打った様に静まり返った。


「……俺、抜けます」


五十嵐は、先程と同じ様な事を繰り返すばかり。


「どうしたの?…五十嵐君?」


五十嵐は、先生の言葉が終わる前に立ち上がり、真っ直ぐに教室のドアへ向かっていた。


(五十嵐…?)


「…頭が痛いです」


若干投げやりにそう言った彼は、眼鏡を取って廊下に出て行ってしまった。



「えっ……」


「何あれ……」


五十嵐が教室を出て行った数秒後、皆は段々と不思議な顔つきで、思い思いの台詞を言い始めた。


「意味分かんない……」


「何なの……」


(五十嵐、どうしたんだろう)


私も、その中の1人だった。


音読をしている途中に、抜け出すなんて。


「はい、皆静かにして。じゃあ、先生が読みます」


手を叩いてクラスメイトを静かにさせた先生は、自ら音読をし始めた。


(五十嵐、今日は係に来ないかな…)


また皆が静まり、先生の音読と共に教科書を読む中、自然と私はそんな事を考えていた。