私の本音は、あなたの為に。

「えっ?何何?全然大丈夫だよ!…じゃあ、俺また読むから!」


五十嵐は瞬時に表情を和らげ、にこにこと笑い出した。


(…五十嵐、変なの)


ころころと表情を変える五十嵐を横目で見ながら、私は隣で机に伏せた。


目を瞑ると、追いかけてくる様に彼が音読をし始める。


途切れ途切れでも、何となく上達はしている気がする。


そして、子守歌の様にまた花恋のピアノの音が聞こえてきた。




それから2日が経ち、授業は6時間目。


国語の時間に、五十嵐の異変はおきた。



「えー…じゃあ、ここの2段落目から3段落目までを、五十嵐君、読んで下さい」


国語の先生が、教科書の音読の為に五十嵐を指名した。


(五十嵐、大丈夫だよね)


私は安心しきっていた。


彼が目が悪くて字を読みずらい事は分かっていたけれど、図書室では自分から本を読みたいと言い出したのだ。


それに、何気に上達はしてきていると思う。


五十嵐もそれを思っていたのか、


「はい!」


と元気良く返事をした。


私は、笑顔で教科書に目を落とした。


五十嵐が読む声に合わせて、自分も黙読をしようと思ったから。


けれど。


「っ………」


一向に、彼の声が聞こえてこない。