「安藤…」


けれど、私はすんでのところで俯いた為、辛うじて五十嵐に私の表情を見られずに済んだ。


「安藤、俺何か悪いことした?」


「優希、大丈夫?」


私は、その2人の声を無視して黙って歩き続ける。


2人の間をすり抜け、図書室のドアに手をかけた時。


「…安藤っ」


誰かに、右手を掴まれた。


その低い声は、明らかに男のもの。


(五十嵐っ!)


「っ……!」


私の口から、掠れた声が漏れる。


「安藤、答えてよ…。俺、安藤に何した?」


私の体がまた固くなった事に気がついていない五十嵐は、ゆっくりと私に話し掛ける。


「……何も」


掠れた声でそう答える私。


きちんとコミュニケーションを取っている私は、凄いと思う。


「えっ、じゃあ何で!?」


五十嵐が、瞬時に私を掴む腕に力を込める。


(嫌だ、離してっ!)


私は、その手を勢い良く振り払った。


自由になった右手を自分の胸元に引き寄せて抱き締める。


「安藤……?」


後ろに立つ五十嵐が、明らかに動揺していて。


「ごめん、なさい…」


そのまま、私は静かにドアを開けて図書室に入って行った。



走って机に向かい、自分のリュックを肩にかける。


ふと下を見ると、私が落とした小説がそのままにされていた。