「彬良くんが・・ニューヨーク転勤になることってあるの?」

「———どうだろうな」

答えてよ、彬良くん。心の中では叫んでた。

彬良くんを遠く、感じてしまった。ううん、違う。もともと遠い存在なんだ。
ただそのことに気づいただけ。

どうしよう、もし彬良くんがニューヨークに行ってしまうことになったら、わたしは・・・

そよか、という彼の声に、はっと顔を上げる。心配そうにこちらを見つめる彬良くんと目が合った。

「本当に、まだ何も決まってないんだ。ニューヨーク行きの打診も今のところないし。もし話がきたとしても、俺もすぐに返事はできない。今の経営企画部の仕事も十二分にやりがいがあるし、それに・・・」
珍しく言い淀む。

ひょっとして、わたしの・・・こと?
でも口に出す勇気はなかった。

かわりに「話してくれてありがとう」となんとか笑ってみせた。うまく笑顔を作れたか、自信はないけど。

そこからは、あまり会話もなく気まずい雰囲気の食事になってしまった。