僕はグラファイトから渡された聖剣オプトゥニールを、それと対になる鞘(さや)に収めテーブルの上に置いた。

 なにしろ『聖剣』だ。床なんかに置いて踏んだりしたら、呪われるかもしれない。

 そう言ったら、みんなに笑われたけど。


「でも、これがオプトゥニールなんだね! 名前は知ってたけど、あたし見るの初めてだよ」


 カナリはそう言いながら、柄の部分に彫り込まれている綺麗な模様を無遠慮に指でなぞる。


「……こんなすごい剣、僕に使えるのかな」


 不安だった。だって僕は初心者勇者だし。それに今まで剣なんて、触った事も無い。ましてや使った事なんてあるわけがないから。


「違う。聖剣はお前が使えるかどうかじゃない。お前にしか、使えないんだ」


 クレールが静かに言った。

 彼は時々しか話さないけど、いつも僕を見透かしたように、ドキッとする事を言う。そしてそれは大抵、僕の迷いや間違いを目の前に突きつけてくる。

 今朝からずっと機嫌が悪そうだと思っていたけど、それも僕の思い違いだったのかな……

 でも、クレールに言われて気が付いた。


 そうだ、僕は決めたんだった。


 勇者になれるかどうかは分からないけど、自分に出来ることをやろうって。もう逃げるのは止めようって。


「そうだね……ごめん。頑張るって決めたんだ、僕は」

「一緒に頑張ろう、緋絽くん」


 レイが僕を励ますようにそう言ってくれた。