カナリはすかさず呪文を唱えた。


「――――命ある炎! 我に力を! 静寂なる風よ! 我の意思を!」


 唱えるのと同時に、兵士の目の前で火柱が上がる。炎は同時に起こった突風にあおられて、銃を構えていた兵士たちを襲った。

 思いもよらず攻撃を受けてしまった兵士の一瞬の隙を狙って、今度はクレールが素早い動きで兵士たちの持っている銃を剣で跳ね上げた。金属同士が当たり、キィンと人工的な音が聞こえる。

 銃はそのまま階段下へ落ちていった。


「今だ! 行け!」


 兵士たちが銃を手放したのを確認して、クレールは叫んだ。僕とレイはその声に弾かれるようにドアをめがけて走り出す。


「させるか!」


 兵士の一人が僕たちの動きに気づき、剣で切りかかってきた。クレールがそれを遮るが肩を切りつけられ、血が飛び散る。


「クレール!」

「いいから! 行け!」


 後ろからカナリが、魔法で追撃する声が聞こえる。僕とレイは、血だらけのクレールに押し込められるようにドアの中へ入った。中へ入るとクレールは、外側からそのドアを閉めてしまい外開きのドアは、もう押しても開かなかった。


 飛び込んだ通路は、つかの間の静寂。僕もレイも床に膝を付き、肩で息をする。


 泣いている場合じゃない。

 泣いている暇なんて無い……!


 だけど、僕の目からは勝手に涙が流れる。

 ドアの向こうからは、クレールとカナリの声がまだ微かに聞こえていた。