ジャンさんは息を切らせながらミュールさんに近づく。その気配に気付いて、ミュールさんはまたゆっくりと目を開けた。


「……ジャンシャーヌ」

「ミュール!」


 ミュールさんはジャンさんの顔を見ると、嬉しそうに微笑んだ。口の端を少し上げただけだったけど、それは本当に嬉しそうで。ジャンさんが側に座ると、ミュールさんは彼に手を伸ばす。


「ジャン、シャーヌ…………さいごに、あいたかった…」


 彼女のゆらゆらと伸ばされた手をジャンさんは両手で握りしめ、じっと見つめた。


「最後なんかじゃねえ! 最後になんか俺がしねえ!」


 強いその言葉に、ミュールさんは困ったようにまた微笑む。


「……ごめん、なさい」

「ちくしょう! 許さねえ! グラファイトの野郎……!」

「ちがう……かれは…………かなしい、ひと……」


 ミュールさんは悲しそうにまた、そう言った。グラファイトは悲しい人だと……

 その言葉の意味は、僕には分からない。ジャンさんも少し眉を歪めていた。


「ジャンシャーヌ……ありが、と、う……」

「ミュール!」


 もう癒しの力も効かない、ミュールさんの怪我。レイもじっと見つめているしかなかった。そしてその命の光は今、消えようとしているのを僕は感じた。


「……ジャン、シャーヌ」


 もう一度、噛み締めるようにミュールさんは彼の名前を呼ぶ。