「――――こんなの僕は嫌だよ!」




 叫んでいた。渾身の力で、叫んでいた。

 僕が欲しいのは、悪魔を倒せるような力じゃ無い。

 誰もが幸せになれる世界が欲しいんだ。


 この世界のみんなが……僕も、そして――――レイも幸せになれる、そんな世界が。


 オプトゥニールは、力の抜けた僕の手から滑り落ちた。床に叩きつけられた聖剣から発せられた金属音が、洞窟内に響き渡る。

 僕はレイの横たわる祭壇に両手をつき、子どものように泣き叫ぶことしか出来なかった。


「こんなの嫌だよ! レイを殺すなんて出来ないよ!」


 みんなが助かるためだからって、レイが犠牲になるなんてそんなのは嫌だった。


「こんなやり方、間違ってる……! これじゃあ誰も幸せにはなれないよ……!」


 僕の瞳から溢れる涙は止まらない。みっともないのは分かってる、情けないのも分かってる。泣き叫んでただをこねるなんて、小さな子供みたいじゃないか。

 でも、僕にはそれしか出来なかった。


 僕は勇者として間違っているかもしれない。躊躇う(ためらう)事なく、聖女の胸を貫くのが正しいのかもしれない。




 だけどそうする事が強く正しい勇者だと言うのなら。

 僕は弱いままでいい。


 レイを殺さずに済むのなら、僕は勇者じゃなくていい。




「……緋絽くん」


 いつの間にか起き上がったレイが、泣いている僕の手をそっと握ってくれていた。