「――――そろそろ、よろしいですか? 瀕死とはいえ約束は守ってもらいますよ、ジャンシャーヌ」


 ジャンさんとミュールさんはお互いに無言で見つめ合っていた。しかしグラファイトはそう言うとすぐに自分の兵士たちを何人か呼び、まだ動けないジャンさんを担ぎ上げさせてしまった。


「元聖女に勇者、そしてその仲間たちも従ってもらいます。世界を混乱に陥れた反逆者という罪状でね」


 ククク、とおかしげに笑うグラファイトの目は、笑っているのにちっともおかしそうじゃない。何処かうつろで、冷たい光を放っていた。

 兵士に連れ去られる間際に、ジャンさんはもう一度ミュールさんを振り返る。


「……お前は、幸せにならなきゃダメ、だ…………」


 小さく呟いた声は、ミュールさんには届いただろうか。

 悲しそうな表情でじっとジャンさんを見つめているだけの彼女からは、何の感情も読み取れなかった。