もしかして、誰かのいたずら?
でも、クラスには僕に対してこんな手の込んだ悪ふざけをする人がいるとは思えない。それ程の関係を、僕は作ってはいなかったのだから。
「……え、えっと……ここは境界線――――『ボーダー』と呼ばれる場所……」
『声』は冷静さを取り戻したのか、また最初と同じ話し方をした。だけどさっきの失敗で、最初程怖くは無かった。それに、よくよく聞いてみると、まるで何かを読んでいるような口調。
教室で誰かが教科書を読んでいるような、そんな感じだ。
「境界線? ボーダー? 何、それ」
「キミの住む世界と、私たちの住む世界の間の場所……何処でもない所……」
声に何を言われているのか、さっぱり分からなかった。だって僕は、たった今まで学校の屋上にいたんだから。
境界線? そんなの全然理解できない。
「キミは選ばなければならない――――ボーダーを踏み越えて私たちの世界へ来るか、ここに残るか……」
「僕の世界には帰れないの?」
「帰る事は出来ない……この場に残れば、やがて体は闇に溶ける……」
それじゃあ、行くって言うしかないじゃないか!
選択出来ない選択肢を突き付けられて、僕は少し腹が立った。だいたい、この『声』は何なんだ。勝手にこんな闇に連れて来て、勝手に話して、選択できない選択肢を突き付けて。
分からない事ばっかりで、怖くて不安で、イライラする。