9月の中旬。



あたしの祈りは聞き入れられなかった。



体育祭委員の仕事は大丈夫だったけど。



体育祭は、無事に終わるどころか、災難だった。



事件が起きたのは、借り物競争のとき。

借り物競争って言っても、その実態は
借り"者"競争。または借り"人"競争。


各クラス男女10名ずつが出場。

あたしは出場しなくて、
体育祭委員の席でのんびり見ていた、はずだった。


この競技は
グラウンドを半分走ったところに、
紙が置いてあって
それを開くと
借りなきゃいけない人が書いてある仕組み。


例えば、

【電車通学の人】
【A組の人】
【名前に、"あ"が入っている人】
って書いてある。

ちなみにお題は、いくつかの中から自分で選べる。


学年ごとに競技は行われて、一年生、
つまりあたしたちの学年から始まった。


よーい、スタート!
の掛け声で第一グループが走り出す。



わーわーきゃーきゃーと、グラウンドは
"借りられたい人"で賑わっている。



うわ、なんか強烈。

全然、借りる人を探すのに苦労しなさそう。

これなら一瞬で、見つかる。

ほとんど、足の速さの問題じゃん。


でも、楽しそうだな。

あたしはのんびりと休みながら競技の様子を眺めていた。

 


少し飽きてきて、
競技から目を離して
プログラムに目を通して仕事の確認をしてるときだった。


「佐藤さん。ちょっと、借りていい?」

上から声をかけられて見上げると
息を切らした中島くんがいて、
右手には紙を持っていた。


「う、うん。」


とにかく早く行かなきゃと思っていた
あたしは急いで立ち上がって中島くんと走った。



手を繋いでゴールしないといけないという謎のルールにより、手を繋がれながら走った。


嫌でも、夏祭りの時を思い出す。


でもほんの5秒くらいでゴールには着いて、
手が離れてほっとしたのも束の間。