【唇を厚くする】【2年】
薄っぺらい唇は、なんだか幸が薄いようで嫌いだった。
女子は唇が印象的なほうがいい。
グロスで光らせ、あひる口でもすればそれだけで可愛く見えたりする。
目、鼻、口、これで一通り揃った。
顔のバランスがようやく整った気がする。
登校前、ずっと憧れだった薄いリップをつけてみる。
こうして鏡の前でメイクするのが楽しいなんて、今までじゃ考えられなかった。
「行ってきまーす‼︎」
もう私は、下を向かない。
前を向いて、空だって見上げる余裕があるんだ。
鼻歌をうたいながら、教室に入る。
いつものように固まっている井沢さんたちに、おはよう‼︎と声を掛けた。
だが、井沢さんたちは絶句している。
一瞬、整形がバレたのかと固まってしまったが、どこか見覚えのある表情に、私はすぐ気づいた。
あの時__桃子がギョッとした顔と同じ。
もしかして?
もしかして私は、とうとう桜庭さんのところまで?
「おっは、渚」
「えっ?」
「なにビックリしてんのよ?武内が三浦に告ったの知ってる?」
そう私に耳打ちしてきたのは、柴田さんだった。
柴田さんは、まんまギャルで一大勢力を築いている。
カーストでいうなら、上から2番目。
その上に君臨するのが、桜庭さんだ。
あと一歩。
あと一歩で、頂上だ。



