武は一言でいうなら、冴えない男だった。


中肉中背で、顔もどこにでもあるような、全く目立たない感じ。


パッとしないな、というのが第一印象だ。


市役所に勤めている武から、デートに誘われた。


終始、汗だくで緊張しているのが、帰り際に握手した手から伝わってくる。


女性に対しての免疫がないのか、これまでなら、特に中学時代の私なら絶対に見向きもしない、素朴な男。


だからこそだろう。


私は、武の交際の申し込みを受けることにした。


真面目を絵に描いたような武との付き合いは、ときめきに欠けるものではあったが、いつも私は心が満たされていたんだ。


「綺麗だ」


そう言って、愛おしそうに私の頬を撫でる。


刻まれた、傷跡を。


武の手はとても暖かい。


私の傷が、燃えるように熱い。


焼けてできた傷なのに、武に触れられるだけで体が痺れていく。


やがて、子供ができた。


順番は逆だが、私は嬉しかった。


この人の子供ならきっと、真っ直ぐな子だろう。


私たちは結婚した。


3人の幸せな家庭が、4人となった頃には、私はもう過去を振り返らなかった。


振り返る暇がなかったんだ。


慌ただしく時間が過ぎていく。


時が、すべてを流してくれた。


すべてを。