「なぁぎさぁー‼︎」


炎の波が、理科室に渦巻いている。


とぐろを巻いて、メラメラと音を立てて焼き尽くしていく。


肌が溶け、目玉が垂れ下がり、原型をとどめなくなっている裕也が、それでも私を求めて手を伸ばす。


ドアに背をつけ、スカートについた火を払う。


もうダメだ。


もう__。


「渚⁉︎渚‼︎」


ドアの向こうから、私を呼ぶ声がした。


けたたましい火災警報器のベルが鳴り響く、その中から聞き覚えのある声が、すぐ向こうから聞こえる。


「も、桃子‼︎」


「渚‼︎そこどいて‼︎」


次の瞬間、ドアが蹴破られた。


「なぁぎさぁー‼︎なぁぎさぁー‼︎」


今にも覆い被さってくる炎の中に、裕也が私を引き込もうと肩に手をかける__。


「渚‼︎早くっ‼︎」


桃子が私の手を引いた。


裕也が離れていく。


ヘドロのように溶けていく裕也が、炎に連れ去られていく。


私に向かって手を伸ばしながら。


「渚、逃げよう‼︎」


「桃子、桃子‼︎」


思わず親友に抱きついた。


そのまま転がるようにして廊下に出る。すでに火の勢いは理科室を離れ、煙で前が見えないくらいだ。


「火事って聞いて、もしかしたらって思ったの‼︎ずっと連絡が取れなかったから‼︎」


「ありがとう、桃子」


「早くここから離れ__」


理科室が、爆発した。