どうしても【指】の味がする。


トマトだと言い聞かせても、果肉の赤色が血の味を思い出させ、私はすべてを吐き出した。


殴られるだろう。


蹴られるだろう。


どう料理してやろうかと私を見下ろし、舌舐めずりをしているに違いない。


今にも振り下ろされようとする暴力に、身をすくめる。


今にも殴られるだろう。


今にも蹴られるだろう。


今、に__も?


薄っすら目を開けると、思いもよらないものが飛び込んできた。


「__裕也?」


思わず立ち上がる。


殴られもしない。


蹴られもしない。


呆然と立ち尽くす裕也の前に、立ち上がった。


その目から、涙を流す裕也の前に。


「どうしたの?最近の裕也、なんかおかしいよ?」


「__渚?」


「なに?」


「渚」


と、裕也が私の手を握った。


握ったまま、その手を持ち上げる。


「裕也、これ__?」


私は自分の手を見つめる。


裕也に両手を挟まれている、自分の手。


ナイフを握らせられている、私の手が、裕也の喉元に突き刺さる。


「渚、俺を殺して?」


「嫌、離して?」


「俺を殺してくれよ」


「離して‼︎」


「俺をぶっ殺してくれよ‼︎」