殴り飽きたのだろうか?


それならそれでいい。


ちょっとくらい生気がないほうが、付き合いやすい。


これまでのように、少しでも私が裕也から気をそらせば拳が飛んでくるようなこともない。


ナンパをされても、知らん顔をしている。


どこか投げやりにも見える裕也が気がかりではあるが、このままなら願い事を叶える必要はないんじゃないか?


私もこれ以上、命を課せたくない。


「あそこのカフェ。リンゴのタルトが美味しいの」


そう言って、裕也の手を引っ張った。


大きな道路を渡った向こうに、お目当のお店がある。


今なら車は来ていない。


「裕也はなに食べる?アップルパイ?」


最近は口数も少なくなった恋人に話しかけ、道路を足早に横切った。


ん?


振り返る。


強く引っ張るが、裕也はびくともしない。


「どうしたの?大丈夫?」


顔を覗き込むと、どこか遠くを見つめていた裕也が、私に焦点を合わせる。


何度か瞬きをして口を開いた。


「もう、2人でよくない?」と。


意味がわからず首を傾げたが、それどころじゃない。


向こうから大型トラックがやってくる。


「危ないから早く渡ろう」


「他はなにも要らない」


「裕也__?」


クラクションが鳴った。


けたたましいクラクションが。