声を掛けてきたのは、井沢(いざわ)さん。
階級でいうと、中くらい。
可もなく不可もない、ストレスからは1番縁遠い安定の席に座っている。これまで話したことはない。
そんな井沢さんが、どうして__?
「葉月さんが描いた絵、見てきたの。とても良かった。実は私も絵を描いてるんだ」
「そうなんだ?」
「良かったら、見てみて」
小脇に抱えていたスケッチブックを、井沢さんが机の上に開いた。
そこには、ゲームのキャラクターが躍動感いっぱいに描かれている。
「わぁ、ホント上手‼︎」
桃子が手を叩いて褒めた。
「凄い。今にも動き出しそう」
「葉月さんも、なにか他に描いてないの?」
「うーん、たまにノートの裏に描いたりとかかな?」
「もったいないよ‼︎今度、一緒に描かない?」
「えっ⁉︎」
声を上げたのは、またしても桃子のほうだった。
まさかお誘いがあるとは思わなかったのだろう。
「うん、今度お願い」
つとめて冷静を装ってはいたが、心がとても熱くなっていた。
【新しい友達ができる】
そう予知されていたが、本当に叶った時、私はとても嬉しかったんだ。



