そこは別荘だった。


みんなと泊まりに来た、優衣の別荘。


合鍵を持っているのか、裕也は自分の家みたいにドアを開けて入っていく。


「全く使われてないし、周りに誰も居ない。なにか悪さをするには最適の場所だな」


どんどんと廊下を進んでいく背中を、私は追いかける。


どうして逃げなかったか?


どうして周りに人が居るうちに、助けを求めなかったのか?


この男は犯罪者だ。


南くんの夢を打ち砕き、そのほとんどの指を切断した上に、私を殺した。


私の心を。


心が死んだ私__すなわち思考が停止した私は、なにも考えることができずにただ、三鷹裕也についていくことしかできない。


この男の元から逃げ出すなんてことは、できない。


もう2度と__。


裕也が階段を降りていく。


すえた臭いが鼻をついた。


カビ臭いような、土臭いような__?


薄暗がりの中に、豆電球が1つぶら下がっている。


頼りない灯りの中に、南くんは倒れていた。


「ほら、お前の大事な男だ。駆け寄らないのか?」


「えっ、でも__」


でも、動かない。


南くんはピクリとも動かない。


この例え難い臭いは【血】と【死】の匂いだ。


8本の指から出血したまま、この冷たい地下室に置き去りにされていた。


命が尽きてしまっていても、不思議じゃない。


「なんだ、もう死んだみたいだな?」