「なんか渚、良いことあった?」


裕也の目が、スーッと細くなる。


私のことを疑っている証拠だ。


「な、なんでもないよ。裕也とこうして一緒に居られるからだよ」


我ながら歯の浮いたようなセリフだと思ったが、裕也には効果覿面だ。


少し目を見開き、やがて微笑む。


危ない危ない。


気をつけないといけない。


もし南くんと密会しているのがバレたら、私は殺されるだろう。


それでも、いそいそと掲示板にSの文字を確認しに行き、裕也の目をごまかしてまで理科室に向かうことはやめられなかった。


今、南くんという心の拠り所がなくなれば、それこそ私は死んでしまう。


体は生きているが、心が生き絶えてしまう。


それほど南くんは、私にとって大切な人になっていた。


もし南くんと付き合っていれば、こんな苦しい思いをしなくていいのに__。


それは叶わぬ夢だ。


あれからアプリには、なにも願い事が追加されない。


私は裕也に絡め取られ、身動きが取れない状態だ。


せめて、南くんを失わなくていいよう、細心の注意を払って毎日を過ごす。


そのことだけに集中しよう。


絶対にバレないように。


絶対に__。