「だから俺にしとけって言ったのに」


そう言うと、南くんは軽く笑った。


裕也ほどイケメンでもないし、高い身長をどこか持て余しているようだけれど、その笑顔は優しかった。


そういえば南くんは、ずっと優しかったんだ。


「__ありがとう」


「お礼を言われてもなぁ」


「そうだよね」


私もフッと笑ってしまった。


その時に気づいた。


笑うって、笑おうとして笑うんじゃないんだ。


裕也のことが世界一好きだと伝えるために、笑顔を繕う毎日。


こうやって自然と微笑むことが、まだ私にもできるんだと知った。


すべては、南くんのお陰。


彼の温かさが、私の心を溶かしてくれたんだ。


「ま、今日はその笑顔が見れただけで良しとするよ」


「私のほうこそありがとう。でも私は__」


「たまに会うのはどう?」


「でも__」


「ここなら誰にも見られない」


そう言って、使われることのない理科室を見回す。


一見、学校内だから人目につきやすい気もするが、ひとたび学校を出ると【どこで何をしている?】と裕也のチェックが入る。まだ校内はチェックが甘い。


でも、もしバレたら__。


「俺は、ただ渚が笑顔でいて欲しいだけなんだ」


「__わかった」


気づけば私は、そう答えていた。