「ここなら大丈夫だから」


南くんの言葉が、抵抗なく耳に入ってくる。


頑(かたく)なに拒絶していた【彼以外】の男の言葉。


「裕也に見られることないから、安心して」


ようやく震えが止まったのは、そこが使われていない理科室だと分かったからだ。


それに__大きな南くんが体を縮こませて、私を心配している。


「だ、大丈夫だから」


すぐにここを出て行こうとするも、足に力が入らない。


命を懸けて守ってきたものに【ひび】が入ったよう。


そしてその亀裂は、南くんが私に優しい言葉を掛けるほど大きくなっていく。


「渚、元気ないから、ずっと心配してたんだ」


「__ずっと?」


「ああ。声を掛けていいか迷ってて、でも心配で」


「そうなんだ」


「ちょっと、落ち着いた?」


「__うん」


裕也以外の男と言葉を交わしている、その恐ろしい事実も受け入れることができた。それは、この隔離した空間と、南くんの気遣いが私を守ってくれているから。


守る。


よく裕也が口に出す、俺は渚を守っているんだと。


その言葉の違いを今、私は思い知っていた。


包む込む守りと、逃さない縛り。


それに気づいた時、とめどなく涙が溢れてきた。