デートの最中、私は裕也だけを見ていた。


それ以外の【もの】は一切、視界に入らないように集中していたのに__。


「よろしくお願いしまーす」


そんな軽い声に、思わず受け取ってしまったんだ。


差し出されたポケットティッシュを。


【男】が差し出したティッシュを。


震える手が、ティッシュを押し潰すのを見下ろしていた。


今にも悪意が飛びかかってきそうで、身を固くしながら、なんとか顔を上げる。


少し先で裕也が振り返っていた。


まったくの無表情で。


「あ、あの、これは偶然__」


言葉が怖くて出てこない。


つかつかと向かってきた裕也に手首を掴まれ、そのまま路地に連れ込まれる。


「俺よりあの男がいいのか⁉︎あんなティッシュ配りの男が!」


「違う‼︎たまたま受け取っただけで、私は裕也のことを愛してるから‼︎」


決まり文句を並べ立てるも、裕也の耳には届かない。


そのまま引きづられ、突き飛ばされた。


腕をしこたま打ちつけ、立ち上がれない。まったくの無抵抗の私に、それからもあらゆる限りの罵声を投げつけ、ようやく怒りが静むと微笑むんだ。


「渚、愛してるよ」


それを聞いた時、私は意識を失った。