「お前……」



あたしは幹部室のドアを開け、一直線に荷物の元へ向かう。



リュックを片方だけ肩にかけた。



「愛夢、どこ行くの?」



あたしはもう片方の肩にもリュックをかける。



そして慧と目線を合わせた。



「………帰る。」



ドアに向かって歩いていると、途中で慧に手を掴まれた。



「…今日は泊まって行きなって。今も顔色悪いよ?」



そんな事言われても、あたしがここにいる訳にはいかない。



泊まる泊まらない以前に、あたしはここの姫を辞めるんだ。



そもそも姫なんてなりたくてなったわけじゃない。



それに、あたしに自由はないから。



あたしは親戚の方々に生かしてもらっている。



お兄ちゃんが残した命。



それを捨てられずに、ただ何も感じずに生きてきた。



何度死にたいと思ったか。



何度殺して欲しいと思ったか。



数えていたらキリがない。



「…あたし、姫、辞めるから。」



「え……姫を、辞める…?」



「そう。辞める。だから手を離して」



「え、えええええ!?ちょ、待って!?なんで!?」



慧が叫んだ事で、この部屋にいた全員があたし達の方をむく。



「どうしたの〜?」



ニコニコと笑顔を崩さない紘は、あたしを一切視界に入れずに慧に聞く。



そんなにあたしのこと嫌い?



当たり前だよね。



あたしみたいな人間、誰も好きにはならない。



昔から変わらないそれは、もう分かっている。



他人から浴びる目線はいつだって同じ。



「…愛夢、本気?」



慧の目は真剣で、逸らすことを許されない。



あたしはそんな慧を冷たく見下ろした。



「…本気。」



だって、あたしを引き取ってくれたおばさんに言われたんだから、仕方ない。



あたしに自由はない。



全て親戚が決めること。



それが人殺しであるあたしの運命(サダメ)。