──目の前が深紅に染まった。 鼻を突くのは何故か蘭の香り。 何じゃ、妾は深紅の蘭なんぞ知らぬぞ。 それに、妾は蘭は好かぬ。 あの頃を思い出すからな。 『楊お嬢様は蘭がお似合いですね』 ……ほら、蘭の香りなんぞするから幻聴が聞こえる。 ああ、あれから何年……何十年経った? お前の声は変わってない無いが、妾はもう何もかも変わってしまった。 なぁ、何故そなたは妾の前からいなくなった? 何故そなたは妾を……私を売った──?