パチパチと馬鹿にしたように拍手をする鈴君は、他のお客さんの視線なんか気にせず拍手の音量を上げていく。
その手がピタリと止まったとき。
2人の止まっていた世界はゆっくりと動き始めた。
「聞いたよ、父さん死んだんだってね」
「...お前が気安く父さんの話をするな。」
「父さんは僕の父さんでもあるんだよ?
僕が父さんのこと父さんって呼んでなにが悪いの?」
「黙れ」
「あの時の僕が兄さんだったら。
兄さんだって父さんを捨てて母さんについて行ったんでしょ...?」
「黙れつってんだろ!!」
人前で蘭君がこんなにも熱くなるなんて、らしくない。
グッと鈴君の胸ぐらを掴んだ蘭君は、今にも殴りかかりそうな体勢に入る。
そんな蘭君を見ても動じない鈴君は口を開き続けた。
「そうやってすぐ僕を殴ろうとする。
兄さんはやっぱり昔のままだね。
なんも変わらない」
「...俺に昔の話をするな。
お前なんか弟でもなんでもない」
「...違う」
「...?」
「僕と兄さんは、ちゃんとした兄弟だよ。
だからこうやって迎えに来たんじゃないか」
「...」
「なあ兄さん、今一人ぼっちなんでしょ?
母さんにそれを話したら、母さん。兄さんに戻ってきてほしいって」
「...はあ?」
「元に戻ろうよ、僕たち家族。
また一緒に暮らそう。ね?」


