玄関のドアを開けっ放しのまま、ポニーテールを揺らせながらバタバタと走って錆びた階段を下りていくお母さんの足音が響く。



「...今の、お前の母親か?」



お母さんと階段ですれ違った蘭君が、玄関前に立って言う。



「うん、私お母さんと二人暮しだし、男連れ込むと色々とめんどくさいんだよね」


「...俺、来て大丈夫か?」


「うん、そういう意味の"めんどくさい"じゃないから」


「...?」



いまいちよく分かってない蘭君にニコッと笑って背を向ける。



よかった...お母さんに蘭君の存在がバレなくて。


こんなかっこいい人紹介したら
お母さん興奮して私のことからかいそうなんだもん。




「あっ、上がって上がって!!
なんにもない所だけど...」


「お邪魔します」


「へへっ...私の住んでるアパートに蘭君が居るなんて、なんか変な感じするな〜」


「まあな」



狭いリビングに早速案内して、冷えたお茶が入ってるコップを渡した。


持っていた私の荷物をその辺に置いてイスに腰を下ろす蘭君は、珍しく緊張していて、一気にお茶を飲み干した。





「蘭君でも緊張するんだね」


「当たり前だ、この状況で緊張しない方がおかしいだろ」


「...女の部屋なんか行き慣れてるくせに...」


「過去のこと出されてもどうしようもねえな。
さっきから女女って、お前まさか嫉妬してんのか?」


「...」


「だから、俺にはもうお前がいるから必要ねえって。
それに恋人まで関係持っていったことねえよ」


「...ほんと?」


「ああ。お前が初めてだよ彩羽」


「...っ」