「彩羽」



凛とした声で私の名を呼ぶ蘭君は...覚悟が出来たみたい。


今までに見たことがない、綺麗な瞳をしていた。



ああ...私、この顔が見たかったんだ。




「俺はお前を受け入れる。だからお前も俺を受け入れろ」


「...」


「死んでも俺から離れないと。
一生俺だけを見つめろ。
その瞳も心も、ぜんぶ俺にくれ」


「...っ、ずっと前から...蘭君のものなのに。
突き放してたのは蘭君自身じゃん...っ」


「うるせえ...。
人を信じるのは怖いんだよ...。
簡単に受け入れられるなら、そもそもこんな複雑な状況にはなってねーだろ?」


「...ごもっともです」



苦しいだけの愛なんて必要ないと、本当は心のどこかで思ってた。
だけど
それはいつか...甘くなって、ほら。
私を溶かそうとするんだ。




「...歩夢達に謝ってくるから。お前は寝てろ」



甘い余韻に浸ってる暇なんてないと、蘭君がベッドから下りる。


窓の外からやってくる風に背中を押されて、彼はドアを開けもう一度私の方に振り返った。





「彩羽、叩いて悪かったな...。
あとで俺のことも殴っていいから」


「それはちょっと...遠慮しとくね」


「じゃあ。また来る」


「うん」




パタリと静かに閉まるドアの音に、ホッとしたような寂しいような...。




「"一生俺だけを見つめろ"...かぁ...」




さらっとプロポーズしてることに
気づいてるのかな、あの人。



蘭君の前ではカッコつけて隠してたけど
ものすごくニヤニヤが止まらない。



ずっと欲しかった、蘭君だけを求めてた。



全然ムードもなにもなかったけど...



「彼の心が奪えるなら、どんな危ないことだって...してみせる」




ボソッと呟いた真っ黒な言葉が、風に吸収されて
その風はマリーゴールドの花びらを数回撫でた。