「離してよ...っ!」
「なに馬鹿なこと言ってんだ!!
せっかく出られたんだぞ!!
戻ったりなんかしたら今度こそ焼け死ぬぞ!!」
「でも...っ!でもあの子が...っ!!!!
たった1人の大事な息子なのよ!?!!
見殺しにしろって言うの!?」
「...っ!!」
冷静じゃない女の人を取り押さえてる大柄な男の人は、複雑な心境で目の前に広がる真っ赤な家を見つめ、そして息を呑む。
止まらない女の人の汗と涙が、アスファルトの色を濃ゆくする。
その原因があまりにも残酷すぎて、私は吹いてくる熱気を喉に通した。
「...」
私には関係ないじゃん。
なのになんで、幼い子が1人火の世界に閉じ込められていると思うと
こんなにも胸が苦しいんだろう。
思い出していた。
蘭君の過去を。
あの日、燃え盛る炎から逃げられなかった父を
助けることが出来なかった蘭君の心情が、取り憑くように私の心を支配した。
無力。
ああ...
蘭君はあの幼い心で
こんなにも辛い絶望を感じていたんだ。


