「消防車はまだみたいね...」
言いながら、熱気と緊張で額から溢れ出した汗を腕で拭う光花。
私は黙って頷くことしかできない。
「...私たちじゃどうすることもできないし。
ここに居たって消防士の人達が来た時の邪魔になるだけだから...行こ、彩羽」
「...うん」
恐怖を紛らわすように、そっと私の手を握ってきた光花は微かに震えていた。
そうだよね...
助ける勇気なんてないんだから、結局はずっとこの場で見ているだけ。
可哀想なんて言葉、いくら頭に浮かべたって
火が消えるわけじゃないんだ...。
数秒ごとに崩れていく家の柱や思い出たちから目を背けるように足を前へ動かしたとき。
「きゃあああああああ!!!!」
燃えている家から出てきた女の人が、急に叫び声をあげる。
助かったはずなのに、泣き崩れる女の人は
せっかくの水分を目から地面に落としていた。


