「彩羽...、いい加減に離せ」
「...」
「いろはっ...!」
「ーーーッ!?」
勢いよく肩を動かして、しつこい蚊のように彼の腕に止まっていた私の手を蘭君は払った。
ーーードサッ!と地面に尻もちをつく。
痛かったけど、声すら上げれなかったのは
蘭君がバイクに跨りながら、尻もちをついた私の姿を見下すように見ていたから。
「...お前、変だぞ?」
「...」
「少し頭を冷やせ」
「...」
「...じゃあな」
ーーーブオンと消えていく、バイクの音は次第に小さくなっていく。
ずっと見つめていた、彼の後ろ姿を。
いなくならないで
私のそばにいて。
そんな薄っぺらいドラマのようなセリフが、ぽんぽんと頭の中には浮かび上がってきた。
...雲が不満そうに月を隠したとき、一気に彼の姿は見えなくなった。
この街全てが、彼を隠したがっている。
彼はきっと、自分の心の隙間に入られることを警戒しているのだろう。
そんな、闇と現実に挟まれながら生きた人間は
いつか壊れてしまう。
どうやって助けるの?なんて。
そんなの聞かれても分からないよ...
分からないから、こんなに苦労してるんじゃないか。


