少し落ち着いたところで、蘭君が乗ってきたバイクの後ろに跨って。
風も、クリスマス間近の街のイルミネーションも、蘭君の背中も
すべてを感じながら...腫れた瞼を癒した。
「ここでいいのか?」
「うん、ありがとう」
年季の入ったアパートの前で止まってもらった。
こんな所に住んでるなんて、高級マンションに住んでる蘭君からしたら、ドン引きかな?
ううん...やっぱり蘭君の表情はいつもと変わらない...。
「ちゃんと、友達には連絡しとけ。
お前のこと心配してたぞ」
「うん...」
「...なあ、彩羽」
「うん?」
呼ばれた名前が、鳴りっぱなしのバイクの音で霞んで聞こえた。
夜中にバイクのエンジンは、とっても近所迷惑だったけど。
でも...私には、特別な音にしか聞こえなくて、謎の優越感が生まれた。
”お前に出会えて、よかった”
それだけ言って、彼は颯爽と姿を消した。
ずるい蘭君はどこまでもずるい。
きっといつだって、蘭君はずるいんだ。


