*
「それじゃあ足元に気をつけて。」
それだけ言って颯爽と車を出す運転手さんは、見るからに忙しそうで、引き止めるのも悪いしお礼も満足に言えなかった。
数分して着いた土手は、夕方の寒さと夕日で色んな感情を目覚めさせる。
目の前に広がる、夕日の光で濃いオレンジ色に染められた河川は、少し波打ちながらも、静かに魚を旅させていた。
土手の階段で1人の男の人の背中を見つけた。
瞳が...大きく揺れる。
後ろ姿を見ただけで誰だか分かっちゃうなんて、やっぱり私、重症なのかも。
色んな感情が胸を締め付けて、すぐにでも手を伸ばして
ーーー蘭君の背中にしがみつきたい。
「...ら...っ...」
名前を呼ぼうとしても、固く閉じた口が簡単に開いてくれない。
どうしよう
好き
すき
スキ
ひさしぶりに見た彼に、想いが溢れて歯止めが利かない。


