「歩夢さん...」
吸い込まれるように、歩夢さんの前に立つ。
冬の風に背中を預けたら、もう寒さなんて気にならない。
私、覚悟できたよ、歩夢さん。
「...今から、蘭のところに?」
「はい。
歩夢さんに頼まれた写真を蘭君に渡しに...」
「そっか...」
「遅くなっちゃって、ごめんなさい」
「ううん。彩羽ちゃんのタイミングで渡してって言ったの俺だし。」
ずっと机の引き出しに閉まってた蘭君の幼い頃の写真は
最初見た時よりもずっと古く感じて。
隣に写ってる綺麗な女の人が誰だかは...大体察しがつく。
「ねえ、彩羽ちゃん」
「...はい?」
ーーーフワリと。歩夢さんが、首元に巻いていたマフラーを取って、私の首元に巻いてくれた。
高そうなマフラーは、香水の匂いが少しだけ染み付いていて
なんだか歩夢さんに甘えちゃってる気分になる。
「こんなに寒いのに...マフラーも忘れるなんて。
よっぽど緊張してるみたいだね、蘭に会うの」
...そりゃあもう。
あんなに覚悟を決めたのに、未だに心臓の音が鳴り止まないんだもん。
私にとって蘭君って...
好きな人だけど、すっごく遠い存在でもあるから。
いつだって彼に会うのは緊張するし、勇気がいることなの。


