誰にも言ってないのに。
簡単に見破られて、顔を真っ青にさせたら
歩夢さんはフッ、と。鼻で笑いながら、堅苦しいネクタイを緩めた。
「大丈夫だよ、蘭には言わないから。」
「なんで分かったんですか?」
「君のその目、見ればわかるよ。
俺は蘭"君"と違って鈍感じゃないから」
言いながら、クスクスと妖美に笑う歩夢さんは侮れない。
この人だから、蘭君は隣にいることを許しんたんだと思う。
歩夢さんのこと、最初は苦手だったけど、なんだかちょっとだけ好きになれた。
「それじゃあ蘭君に写真、ちゃんと届けてね。
彩羽ちゃんの好きなタイミングでいいから」
歩夢さんの一言で、すっ飛んでくる黒塗りの高級車が
なんにもない空き地に止まって存在感を発揮する。
「...彩羽ちゃん」
車に乗り込もうとした歩夢さんがドアの前で足を止めて、私の方に振り返った。
「どうかしました...?」
ちょっとだけ寂しそうな歩夢さんの声に、瞳が大きく揺れ動いて動揺してしまった。
「...ううん、なんでもない」
「...?」
「君ならきっと...蘭を...」
その言葉の続きを言わないまま、歩夢さんは高級車に乗り込んで去っていった。
歩夢さんのあの、寂しそうな顔が、また私の悩みの1つとなって。
あの時、何を言おうとしたか分かんないけど
蘭君同様、歩夢さんもきっと何かを隠してる。
歩夢さんの背中から見えた、寂しさの塊。
それを私に言おうとしても言えなかったのは
彼もきっと何かに悩んでるから。
「...っ...」
私じゃ、誰も助けられないのかな...?
不安が不安を煽って、真っ暗な視界に誘うために、また私を俯かせた。


