騎士団長のお気に召すまま

「ようやくうるさいのがいなくなった」と溜め息を吐くシアンの横で、アメリアはひとつ疑問があった。


「シアン様、どうして私を婚約者だなんて紹介したのです?」


婚約者になりたいとは思っていたが、正式な婚約者にはなれていない。それどころか、婚約を解消されたくらいなのだ。

するとシアンは「そちらの方がやりやすいので」と答えた。


「このような場になると女性の相手が面倒なのです。そう言ってしまった方が幾分か楽ですから」

「でも、このことがアクレイド伯爵に伝わったらまずいのではないのですか?」


アクレイド伯爵がシアンとアメリアの婚約を解消するように言い出したのだ。それにシアンも兄には逆らえないと言っていた。

この場でアメリアとの仲をそう言ってしまったことが伝われば、なんだか大変なことになるような気がする。

けれどシアンは「心配はいりません」と言い切った。


「兄上に伝わったとしても、説得が長引いているといえばいいだけですから」

「そんなこと言って、私の家が大変なことになったらどうなるのですか!」

「まあ、大丈夫でしょう」なんてシアンはそっけなく言うと、「それよりも」と話を続けた。。


「それよりも貴女は大丈夫なのですか? あのミアが主催者なんですよ?」


その言葉で自分が置かれた現状を思い出す。

この夜会で、確実に何かが起こる。シアンもヘンディーもそう言っていた。

何が起こるのだろう。その時、自分はどうすれば……。

アメリアが考え続けていることに気付いたシアンは「考えないでください」と言った。


「考えるだけ無駄ですから」

「無駄!?」


その言い方に苛立ったアメリアだったが、それより先にシアンが言う。


「ほら、主催者のお出ましです」