騎士団長のお気に召すまま

しかしそんなシアンの様子にも何も驚かずに、ヘンディーと呼ばれた男性は親しげにシアンに話しかける。


「まさかヘンディーも来ているとは思いませんでした」

「それはこっちの台詞さ。珍しいな、シアンがこんなところにいるなんて」


「一体どういう風の吹き回しだ？」と明るい笑顔で肩を叩くヘンディーに、シアンは表情こそ変えないが溜息を吐いて毒を吐く。


「ああ、いつものことながら騒がしいお人ですね」


笑顔で毒を吐くシアンにも驚いたが、それ以上に驚いたのは毒を吐くシアンにも気にせずにヘンディーがかかわっているということだった。それほど気心が知れた仲ということだろうか。

二人の関係を不思議に思いながら見つめていると、アメリアの存在に気づいたらしいヘンディーがにこやかな笑顔をアメリアに向ける。


「それよりそちらの美しすぎるご令嬢は？」

「こちらはアメリア・ミルフォード嬢。幼馴染みであり許嫁です」


紹介されたアメリアはドレスの裾を持って上品に挨拶をする。

ヘンディーは笑顔のままアメリアに会釈をするがやがて目を見開いて、「待て」とシアンに言った。


「今、お前、このご令嬢を許嫁と言ったか」

「ええ、言いましたが」


シアンは眉をぴくりと動かした。

それを見たアメリアは、ああ、面倒なことになってきた、というシアンの心の声が聞こえてきそうだと思った。


「誰の婚約者だ？」

「僕のですが」

「そうか、お前のか…って、お前の！？」


驚きの表情を見せるヘンディーに、シアンは唇に人差し指をあてて「うるさいです！騒がないでください！」と注意をした。

シアンは慌ててあたりを見渡したが、招待客たちはみなそれぞれ談笑しているようでヘンディーの大声を気にした人はいなかった。