騎士団長のお気に召すまま

「先日もシアン様とご一緒でしたわね。とても仲がよろしいのですね」


ミアはにこりと微笑んで見せた。けれどそれはすぐに作り物であるとすぐに分かるような、わざとらしい笑みだった。

その奥にある嫌悪の感情が伝わってくるほどで、シアンはとんでもない人に気にいられているのだとアメリアは思わず同情してしまった。


「彼女は貴族令嬢でありながら騎士団員として尽力してくださっていますので」


シアンの言葉にミアは「そうですのね」と頷く。


「マリル港での服装はとても似合っていらっしゃいましたよ。平民にしか見えませんでしたもの」


それはアメリアが平民同然だと言っているようなもので、ただの嫌味だった。

しかしながら嫌味を言われ慣れているアメリアは特に何を思うこともなく「仕事ですので」と軽くいなす。

アメリアが何も思わなかったことに少し苛立った様子のミアは「どうぞゆっくりしていってくださいね」と言うとすぐに別の招待客へと挨拶をしに行った。

ミアの視線から外れたことにアメリアが安堵していると、シアンは「怒らないのですね」と言われた。


「あの程度のこと、慣れていますから」

「さすが子爵家は違いますね」

「それは馬鹿にしている言葉ですね」


そんな言い合いをしていると、シアンはすっと声の大きさを落として誰にも聞こえないくらいの小声で「隙を見せないでください」と注意された。


「夜会はまだ始まってもいないのですよ」


シアンの言葉はその通りで、アメリアは気合を入れなおした。