騎士団長のお気に召すまま

せめて感謝を伝えたくてアメリアは言うのだが、「感謝しているのなら、騎士団に恥をかかせないような振る舞いをすることです」とシアンは窓の外を眺めたまま素っ気なく答える。


「ドレスも靴も、騎士団で働く者として相応のものを選びました。貴女のためではありません、騎士団のためです」


ああ、そうだったとアメリアは思い知らされた。

このシアン・アクレイドという人物の中心にあるのは騎士団だ。すべての行動の理由には合理的な理由がある。騎士団以外の仕事では決して人助けなどしないのだ。

はあ、と深い溜め息を吐き出した。


程なくして到着したキャンベル邸は、シアン邸ほどではないものの、ミルフォード家とは比べ物にならないほど立派な屋敷だった。灰色がかった煉瓦に青色の屋根は高級感を醸し出している。

招待客も大勢いるようで、着飾った紳士淑女が談笑している。

こんなにも多くの人の前に出ることなど経験したことのないアメリアは緊張を隠せない。

するとアメリアの様子に気付いたシアンは「貧困子爵家のご令嬢が一人前に緊張しているのですね」と鼻で笑う。

頭にきたアメリアは反論しようとシアンに顔を向けるのだが、シアンは真剣な顔をして言った。


「貴女はあのビスにマナーを叩き込まれたのでしょう? それなら、落ち着いてふるまえば問題ありません。もしもの時は僕が助けますから」


アメリアは目を見開いた。まさかシアンがこんな風に言ってくれるなんて思いもしなかったのだ。その意図は、なんとなく分かってはいたが。


「…それも騎士団のためですか」

「当然です」


幻滅はしなかった。もとからシアンはこういう自己中心的なところがある最低な人だと分かっていた。むしろ、少しもぶれないその姿勢に感心さえしてしまう。



「シアン様!」