騎士団長のお気に召すまま

「ご実家では指導されてこなかったのですか?」

「教えて頂いてはいたけれど、ここまで事細かくということはなかったわ」


何せミルフォード子爵家は数ある子爵家の中でも地位の低い貴族だ。

そんな貴族が夜会に出席すること自体少なく、教えてもらったことも実践する前に忘れていることも多かった。


「アメリア様の振舞いには旦那様の騎士団のことも関わりますゆえ」


下手なことをするなよ、とまでは言わないものの、そのビスの視線だけで言いたいことはアメリアにも伝わった。

その視線にビスの主人の面影を見つけてアメリアは溜息を吐いた。


「あのシアン様の騎士団で働くということが知られたなら、きっと注目度も高いわよね」

「間違いありませんね。貴族の令嬢が騎士団で働くということも珍しいことですし、それをあの旦那様が認められたということですから余計に注目の的でしょう。おまけにミア様がいらっしゃいますから、血祭りでしょうね」


間髪入れないビスの答えにまた一つ溜め息を吐いて、日曜日が永遠に来なければいいとこんなにも願うのはこれが初めてかもしれないとアメリアは思った。


そして永遠に来なければいいと願った日曜日は来た。

アメリアは非情に暗い気持ちのまま当日を迎えたが、ビスからは「嘘でも笑顔を絶やさないでください」、合流したシアンからは「騎士団の名に泥を塗ったら許しません」と言われ、午前中はずっと溜め息を吐いていた。

午後になると、やれドレスだのアクセサリーだのと夜会のためと言って屋敷のメイド達が上機嫌でアメリアの部屋を訪れた。