「かなり酷いことを考えておられたのですね。腹が黒い」


思わず本音が口から漏れてしまったが、シアンはそれを咎めることなく「はやく仕事をしてください」と言うのだ。


「これ以上、仕事に滞りが出ては迷惑です」


この利己的な考え方に少し腹立たしくも思ったが、それでも自分を助けてくれたことに変わりはない。

もしかしたら、シアンは意外にも本当は優しい人物なのかもしれない、とアメリアは思った。

シアンのこの素っ気ない態度も、もしかしたら照れや恥ずかしさの裏返しなのかもしれない。

「先に戻ります」と給湯室を出て行く後ろ姿に、アメリアは少しだけ心が穏やかになった。



「お待たせしました」

淹れ直した紅茶を、執務室の机で仕事をするシアンに運ぶ。

「ご苦労様です」とシアンはティーカップに口をつけるが、次の瞬間「本当にあなたは仕事ができないのですね」と溜め息を吐いた。

アメリアは思わず「え?」と首を傾げる。


「これは紅茶ではありません。味も香りもあまりに希薄で、まるで湯を飲んでいるようです。蒸らす時間が短すぎます。加減を知ってください」


浴びせられる言葉は容赦がない。

もしかしたら優しい人かもしれないと、少しでも思った自分が馬鹿だった、とアメリアは思った。

そうだった、なぜ忘れていたのだろう。

目の前にいるのは、あの冷酷無比な青藍の騎士。情けも容赦もシアンには存在しない。

怒りに燃えるアメリアだが、シアンはティーカップを置いて「ただ」と言葉を付け加えた。