「貴女は僕と婚約したいのでしょう?そのために、僕をその気にさせないといけないのでしょう?」


確かにその通りだが、それを本人から言われると、なんて滑稽だろうと惨めな思いになる。

これしか自分の家を救う方法はないのだと分かっていても返事をする気にはなれなくて、シアンを睨みつけた。


「よい機会だと思いますよ。あなたは底力とやらを僕に見せることができるし、僕も忙しくてもあなたの頑張りを見ることができる。とても合理的です」


シアンは手に持っていた資料を置くとまた別の資料を手に取って目を通す。騎士団長にはやらなければならないことが多いらしい。

アメリアはなにかしら反論しようとしたが、確かにシアンの言うことは正論だった。アメリアにとって不利でなければ、有利でしかない。非常に好都合なことだ。

しかしそれでも反論したい気持ちになるのは、アメリアを小馬鹿にしたように話すシアンの言い方のせいだった。

苛立つ感情をなんとか抑えて、アメリアは気になっていたことを尋ねる。


「どうして、そこまでしてくださるのですか?」


アメリアにとっては好都合なことでも、婚約する気のないシアンにとっては不都合なことだ。シアンがアメリアのためにそこまでする必要もない。

するとシアンはようやく資料から目を離してアメリアを見つめた。

シアンの真っ直ぐな瞳にアメリアの胸が不意に高鳴る。

綺麗なその薄い唇を動かしてシアンは言った。



「あなたを騎士団に招き入れたのは、僕です。他の団員に迷惑はかけられません」