食堂へ向かうアメリアの足取りは重い。

ジルに言われるがまま掃除道具を片付けて来たものの、普段とは全く異なる生活に既に疲れを感じていた。

食堂へと続く廊下を覚束ない足取りで俯きながら歩いていると、誰かひとり前から歩いてくるようだった。



「随分とお疲れのようですね」



俯いて歩くアメリアにかけられたのはそんな声だった。

はっと顔をあげると、騎士団長であるシアンがアメリアを見つめていた。



「まだ半日しか働いていないというのに、この有様ですか。臨むところと啖呵を切ったのは一体どこのどなただったでしょうか」



無表情で感情的ではないのに、どこか小馬鹿にするような呆れるようなその言い方に苛立って、アメリアは眉間にしわを寄せた。



「服も、仕事も、まるで女給のようですね。貴族の娘が聞いて呆れます。その上、身分の低い平民に叱られ詰られ、さぞ惨めな思いをされたことでしょう」



退団ならいつでもどうぞ、と言わんばかりのシアンの言動に、アメリアは両の拳を握る。



「__底辺貴族の本気を、馬鹿にしないでくださる?」



疲れ果ててはいたものの、それでも背筋を伸ばして、妖艶に笑って見せる。

乱れた髪も、汚れた服も、どれも高貴な娘からは程遠いけれど、それでも自分は誇り高い貴族の娘だと自信に満ちた表情をしてシアンを見据えた。



「惨めだなんて、それは今までだって同じこと。今さら手段を選びませんわ」



いつも母が言っていた、美しくあれ、気高くあれと、その言葉からは程遠い。

けれど今は手にしたいものがあるのだ。それを諦めるわけにはいかない。

どれほど醜くとも、惨めだろうとも、諦めるわけにはいかないのだとアメリアは心から思った。